http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090402-00000301-president-bus_all

■伸びる男のタイプが確実に変化しています

 最近、銀座にいらっしゃるお客様を拝見していて、成功する男性のタイプが変わってきていると実感しています。少し前までは、いわゆる「俺についてこい」タイプというか、強力なリーダーシップを発揮する人が出世していたものでした。ところが今は、周囲の共感を得ながら進むタイプのほうが成功を収める傾向にあるようですね。
 成功する人は、必ずいいブレーンを持っています。人の意見にきちんと耳を傾けられるから、上からは引き上げられ、下からは押し上げてもらえる。いい男は人こそが財産だということをわかっています。義理人情に厚く謙虚で誠実だからこそ、ますますいい人が寄ってくるのでしょう。

 今、いわゆる「つなぐ」ことができる男は本当に強いと思うのです。異なった職種の人どうしをつないだり、他部署の人を巻き込んだりすることで、より大きな仕事ができるからです。
 誰が何と言おうと自分の道を突き進む人や、目的のためには争いも辞さないタイプが成功すると信じられていたのは組織がピラミッド型だったころのお話。自分が中心となって人々を回していく現代の「コマ型組織」では、いかに周囲の人々を巻き込めるかが勝負なのです。伸びる男は、むやみに敵をつくりませんし、敵だった人たちでさえ味方につけてしまうものです。
 最近どうも、若いころから囲碁をなさっている方に成功者が多いように思います。囲碁というのは、いかにうまく石をつないで領地を広くするかが勝負でしょう。わずかな石を取った、取られたと騒ぐのではなく大局で流れが見えている人が勝つ。仕事人生もこれと同じことがいえるのではないかしら。

 いい意味で妥協することも必要でしょう。ビジネスを成功させるには、ときには意見の違う相手にも歩み寄れる部分は歩み寄って着地させなければなりません。乱暴に急降下するのではなく、いろいろな人の意見を聞き、誰のプライドも傷つけず、フワッと着地、いわばソフトランディングが上手であれば最高でしょうね。
 わかってくれない人たちに怒鳴り散らすのではなくて、自分からその人たちをわかろうとする。もし、「わかってくれない奴はいらない」と切り捨ててしまえば、戦力は半減でしょ? でも、わかってくれない人たちをチームに加えてみたら、30%くらいの力なら出してくれるかもしれない。そしてもし、わかってくれている人たちが100%の力を出してくれたら130%の結果が出せる。会社はわかってくれない人たちにもペイしているわけだから、働いてもらわないのはもったいない。
 さきほど申し上げた、囲碁をたしなむような方は、勝つためのルール、定石をたくさんご存じです。だからこそ、ビジネスにおいても一つの勝ち方に固執しない。何十年か後に勝つことさえできれば、今日明日の勝敗にこだわらないところがあります。
 ときに撤退することは、決して敗退ではありません。負けるにしても明日につながる負け方をすればいいんです。何ものぞみのグリーン車に乗ることだけが、大阪へ行く方法じゃないでしょう。ひかりやこだまの自由席だって、大阪にちゃんと着きますもの。むしろお弁当をゆっくり食べて、窓からの景色を楽しみながら旅をした人のほうが、いろいろな素養が身につくことだってあるかもしれないですよね。


■「この道一筋」だけでは、時代についていけません

 実際に成功した方は、本当にいろいろな経験を積んでいるもの。今までは「脇目もふらずこの道一筋」というタイプが出世してきました。でも最近はそうでもない。極端な専門職でもない限り、これだけ世の中が複雑に多様化する中、いろいろなことに興味を持って、回り道や寄り道をいっぱいしていないと、時代が何を要求しているかわからないと思うのです。だから新聞や雑誌やインターネットなど二次的な情報だけでなく、扉を開けて表に出て、自分の足を運んでみるということは重要です。

「ふたご屋」にいらっしゃるお客様は、ある程度の成功を収めた方がほとんどです。本当に馴染みの店に電話一本で席を用意されるような方ばかり。ところが群を抜いて伸びている方に限ってミシュランに載っているお店のこともよくご存じです。やはり生の情報量が格段に違うのだと思います。今はまだ若くてお金がない方でも、たまには自己投資の意味で高級なお店に行かれてみてはいかがでしょう。
 お店で見ていても、一番魅力的なのは、ミシュランの店からサイゼリヤの100円ワインまで自然体で楽しめるような人。何か気に入らないところがあると感じても文句ばかり言うのではなく、それを逆手にとるくらいで部下や女の子も巻き込んで楽しく遊んでくださる方。こんな方には男の余裕が感じられますね。


ミクシィなどで私生活を見せることも大切

 時間に几帳面で気持ちの切り替えが早い方もこれから伸びると思います。気持ちよくお酒を飲まれていて、ついつい長居されたい気持ちはわかるのですが、ご自身も、一緒に来た方もあまり遅くなれば、翌日のお仕事に響きかねないでしょう。お酒の引き際をわきまえた飲み方をされる方は、お仕事も時間を区切ってきちんとされている方という印象が強いものです。
 お店の女の子の扱いも同じです。お店が終わった後のアフターはあくまで強制ではありません。「カネを払ったのだから」と、無理やり連れ出すような遊び方をされている方は、会社でも引き際や妥協を知らず、かつ時代錯誤なワンマンぶりを発揮されているのでは。

 日本の場合、恵まれない住宅事情などがあって、自宅にお招きする代わりにクラブでお仕事の話をする、というシステムが機能しているわけです。欧米であれば、お客様や部下をお招きしてコミュニケーションを図るホームパーティーに等しい部分があります。ですから最低限、周りの方への配慮を兼ねたマナーをわきまえた方が、人もお金も味方につけられるものです。
 ゴルフの帰りに銀座にいらっしゃるなら、最低限のドレスコードとして、ポロシャツの上から一枚ジャケットを羽織っていてほしいもの。ご自身はゴルフ帰りでも、周りの方は正装でいらっしゃっているわけですから、ちょっとした気遣いが空気を和ませるのです。
 仕事のために私生活を犠牲にすることも厭わないような男性が出世したのは過去のお話。これからは、遊びも家庭も大事にするワークライフバランスのとれた男が伸びていくと思います。

 最後に、成功されている若い経営者の方には、自分の日々の生活を、ブログやミクシィでオープンになさっている方が多い。「どこの店で飲んでいるかまでバレちゃうのが困る」と言いながらも、プライべートも弱みも見せるわけです。そうすることで、周囲はその人に裏表がないと感じ取るのです。先に申し上げましたように、私生活を見せる文化のない日本ですから、このような自己開示も、上に上がるための一つの手ではないでしょうか。


長山清子=文
大沢尚芳=撮影

(PRESIDENT 2008.5.5)